『NOBLE FLEECE』(ノーブル・フリース)の歴史は、『NOBLE FLEECE』そのものとよく似ています。
他に類を見ないその美しさはたとえ離れたところからでも手に取るように分かりますが、近くによって詳しく見てみないと本当の良さは理解できないのです。
手に取れば、一本一本の糸が丁寧に織られていることがわかります。
一本ではただの糸に過ぎませんが、その糸が集まれば、記憶に残るものを作り出します。それと同じように、500年の歴史は布地と絡み合い、ストーリーのひとつひとつが組み合わさり、調和することでスキャバルの終わることのない、完璧さへの追求の物語を伝えています。
伝統とモダンが絶妙に混ざり合った成果を、その手触りに感じ取ることができるでしょう。
THREAD OF TIME(糸が紡ぐ歴史)
物語はスペイン北部の、のどかな平野から始まります。
現代のメリノ種に繋がる祖先がいたのはこの地であり、中世ヨーロッパでは王の財産でした。
その系統はローマ、フェニキアにまで遡り、強大な皇帝の身を飾っていました。
メリノ種はこの祖先がイギリスの丈夫な種と掛け合わされることで生まれたのです。
こうして品種改良されたメリノ種のウールはイギリスに逆輸入され、世界から羨望の的となる布地へ織られました。
これに携わっていたのが1539年に建てられた、スキャバルの工場をはじめとする、ミルと呼ばれる織工場です。
スキャバルのミルは今日まで継続して生地の製造を行っています。
スペイン王の財布を支えていたのは事実、このウールと言って過言でなく、そのため1723年に許可されるまで、メリノ種の羊を一頭でも国外に出そうとする者は死刑となっていました。
100年が経ち、ヨーロッパのほぼ全域にてこのフワフワのウールを持つメリノ種が見られるようになりました。
そして戦争や革命などにより君主制という絶対的な権力がその勢力を弱め、メリノ種は民間にも広まっていきました。
そして大西洋を越え、数多くの建国の立役者たちがメリノ種を所有したことから、そのウールはアメリカ合衆国の成立に不可欠な役割を果たすのです。
メリノ種を心のふるさとへ運ぶ旅、それはもう一つの大海を越える壮大かつ苦難の旅でした。
1788年、ようやくオーストラリアへメリノ種が上陸し、当時未知の土地でしかなかった第五の大陸に広がる花崗岩の台地に、メリノ種が繁栄を極めるまでわずか20年しかかかりませんでした。
今日私たちがよく知る、愛すべきメリノ種を作ったのはその思いがけない食欲でしたが、メリノ種の人気を受けて、ヨーロッパ、そしてアメリカのトップブリーダーたちは、より大きな子羊を作ろうと試みました。
オーストラリア国内で、羊肉は牛肉ほど好まれないため、メリノ種はウールを取るために飼育され、世代を追うごとにウールの質は向上していきました。
その方向性は的を射たもので、オーストラリアには現在約7400万頭もの羊が飼われ、その数は人口を遙かに上回り、世界のウール供給の4分の1を輸出するに至っています。
史上最高品質のウールはオーストラリア産メリノ種から作られており、その90%は今でも家族経営の農場で生産されています。
スキャバルの会長であるグレゴー・ティッセンがそんな家族経営を見学に訪れたその時が、『NOBLE FLEECE』物語における新しい章の始まりでした。
A MOST NOBLE CLUB(もっとも高貴なクラブ)
家族よりも大事なものはない、かつて賢者はこう言いました。
スキャバルでは、この言葉を信念としています。
だからこそ、マーチャントの3代目であるグレゴー・ティッセンは、父のJ・P・ティッセンと同じく社に人生を捧げているのです。
また、オーストラリアでメリノ種の牧場を家族経営で続けていくのが徐々に厳しくなっているなかで、必要なのは変化だとも感じたのでした。
ティッセン氏が、スキャバル・ノーブル・ウールクラブという、環境面において持続可能かつ経済面でも公正な農場経営に乗り出したのはこのような理由のためです。
「ここスキャバルでは、常にウールの持つ可能性の境界線を押し上げていこうと試みています。
また、当社では原材料を直接生産者から仕入れていますが、その中でもウルトラファイン・ウールを生産するオーストラリアの農場を2013年に訪問したときに、私は初めて認識したのです、ウール産業の原材料供給者には保護と維持の両方が必要だということに。
それこそスキャバル・ノーブル・ウールクラブとともに、ウルトラファイン・ウールの生産者が持つ熟練の技に注目する業界の技術革新を目標とした、伝統への立脚なのです。互いに手を取りあえば、将来必ずやこの地球上で最高に素晴らしい原材料としてのウールを生産できることは確実です。
また、当社では現在業界の主流である繊維直径の限界をさらに超えたいと考えています。
現在、一本一本の糸がどれだけ細いのかを示す単位として、μmやmicron(ミクロン)が使用されています。
糸は細ければ細いほど布地は柔らかく、そしてより気品が出るとされています。これらは数字の前に「スーパー」と表示がある生地で、このシステムはすでに限界があるというのが、私どもの意見です。
まず、1974年にスーパー120’sの壁を破ったのが当社でした。
以降スーパー150’sを、そしてスーパー180’s、200’sの壁も越えたことは言うに及びません。
多くの革新者と同じく、常に他に先んじるのがスキャバルであり、専門家として現在のシステムを変える資格があると感じています。
さらに消費者の皆様も、興味のある製品についてより深い知識を持たれるようになられました。
そんな皆様に、この時代が理想とする完成形を表示することのできる、より良いシステムをご提供したいと考えています。
誠実かつ持続可能な枠組みのもとで生産される品を求める声を、当社を末永く愛してくださる最終消費者の皆様から続々と頂いているのです。
地球上における最高のウールを製造するというのは、単に繊維の直径を計るだけではない、複雑なプロセスを必要とします。
土壌、空気など羊を生育する環境のすべてが、最終的な製品に影響を与えます。
動物が消費する食料や水を確保し、これからの世代が地球の資源を享受していくためには、この自然の基盤を慎重に保護しなければならないのです。
そのために、スキャバル・ノーブル・ウールクラブがあるのです」
FROM SHEEP TO SHOP(羊からショップへ)
「スキャバル・ノーブル・ウールクラブの生産者になるためには、まず非常に厳格で詳細な選択基準に合格しなければなりません。
基本的に、血統に従い純血種か「純種」のサクソンメリノ種羊を飼育している必要があります。
このように血統の管理を推進したのは当社が世界初です。
生産量は低くても、より高い品質のウールを生み出すと認識し、当社では、現在の市場傾向よりも良い条件で生産者に補償を提示しています。
これにより、オーストラリアの農場の種は将来にわたって保証され、オーストラリアが先陣を切って収益性が上がる状態へ回帰することが期待できます。
さらに、この種は主に海抜600メートルに拡がる、この種が好む花崗岩ベースの土壌で飼育するのが一番です。
業界では繊維強度と呼ばれるウールの弾力性は、仕立て業者、消費者、その両方にとって最も重要です。
繊維強度が高いということは、『NOBLE FLEECE』を使用して作られた衣類が、長年耐久性を保ち、将来的に布地としての優れた品質を保つ証となることを意味します。
また、当社のクリンプも基準の証明にもなります。
クリンプとはウール繊維の中に見られる細かな縮れのことで、着用後の布地の復元力を左右し、完成した布地の感触にも影響します。
重要なことは、布地に素晴らしい弾力性をもたらし、これが摩耗に対する耐久性に大きく関わるほか、空気の層を作って断熱性を高めます。
最後に、生地を扱うファミリーの3代目として、私は伝統を重んじます。
親から子へと受け継がれるごとに磨き上げられてきた知識に、勝るものはありません。
それゆえ当社は、祖先と同じフィールド(地理的な意味でも専門分野的な意味でも)で仕事を続けている生産者を支持するのです。
こういった農場に育つ子供たちが、明日のスキャバル・ノーブル・ウールクラブのパートナーとなります。
これだけでも当社の取り組みの将来的な規模の大きさがお分かりいただけるでしょう。
『NOBLE FLEECE』は、それ自体が特別な製品ですが、その革新をもたらしたのは、『NOBLE FLEECE』を取り巻くプロジェクト全体なのです」
THE LION LED BY LAMBS(子羊に導かれたライオン)
これらオーストラリア生産者が作り出す素晴らしいウールを使用し、スキャバルは約500年前にメリノ種のウールを紡いだのと同じイギリス国内の織工場で、『NOBLE FLEECE』を生産しています。micron(ミクロン)という単位を超えた、素晴らしいスーパー200’sクオリティです。
完璧なスーツを追求する上でスキャバルの『NOBLE FLEECE』を選んでいただくことは、スキャバルがこれまでにクリエイトした究極に完成度の高い服地を着用しているというだけではなく、理想を体現していることになるのです。
製織、責任感にあふれる農業、深い情熱、そして比類なき協力などにおいて、前例のない優れた要素を集大成し、表現した最高峰と言えるでしょう。
あらゆる服地、そこから作り出される洋服は、まさに未来のファブリックへの投資であり、それこそ真の『NOBLE FLEECE』なのです。